予断、偏見、無知、勘違い、

人は、胸のうちに、密かな信念をもっている。それは、多くの場合、何の根拠もないものなのだが、自分が一度は尊敬したことのある者に吹き込まれてもので、しかも大したことではないのだが、それだけに無反省に放置され、心の中に巣くっている。それは普段、あまり害を及ぼさないのだが、実は自分の判断に大きく作用している、偏見の根である。その根っこを少しくすぐられ、上手に訴えられると、ころりと騙されてしまう。それがいかに、危険なものであるかはフラランシス・ベーコンの「イドラ」論によく示されている。
ノーベル経済学者のアマルティア・センが、アイデンティティ固執することの危険性、それを取り除くことの困難性を説いているのも、似た発想だ。
これを打ち破ることこそ、武器としてのペンの使命である。
しかし、それは容易ではない。無知、勘違い、日常生活のちょっとした軋轢、嫌悪感が、あっと言う間に、偏見の根に結びつく。